資産の承継には様々なものがあります。その中でも代表的なのが遺言です。今回、相続法改正により自筆証書遺言の要件の緩和が行われる予定です。いっぽう家族信託もテレビ番組で採り上げられるなどし、注目度が高くなっています。今回は遺言と家族信託の制度の比較や使い分けについてご紹介します。
遺言と家族信託の違い
遺言は遺言者の死亡の時から効力が発生するのに対し、家族信託は契約を結んだ時から効力が発生します。つまり、生前から契約を実行する際に有効な手段です。ただし、家族信託にも停止条件を付けることができますので注意が必要です(信託法4条4項)
認知症対策
認知症対策を考えたときには、次のような違いがあります。
1-1-1 遺言
父親が「全財産を長男に相続させる」という遺言を作成したとしても、父親が認知症になり、判断能力を失ったあとは、長男は財産管理・処分をできるとは限りません。父親が生きている限りは遺言の効力は発生しないため、父親が生存する以上は本人のみ管理・処分ができることになります。ただし、成年後見制度を使えば、本人以外が管理・処分できることは可能です。
1-1-2 家族信託
家族信託を利用して、父親から長男に財産管理を任せた場合は、契約時点から長男が管理することが可能なので、上記のような認知症のリスクを回避することができます。
資産承継が確実に
1-2-1 遺言
遺言は自分が亡くなった後のこと決める仕組みです。そのために、本人は確実に自分が遺言に定めた内容が実行されているか確認することができません。また、現在の法律では相続人によって遺産分割協議を行うことが可能です。そのため、遺言の内容と異なった資産承継が行われる可能性があります。
1-2-2 家族信託 家族信託では、本人が元気なうちに契約によって試算承継が可能です。たとえば、不動産なら、委託者から受託者に登記名義が書き換えられますが、これを自分の目で確認することができるのです。自分が死んだら配偶者に、配偶者が死んだら長男にと試算承継の道筋を定めることもできます。これを「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」と言います。
家族信託の場合は名義変更を生前に行う、金銭を信託口口座に入れて管理するなど行うことができ、相続と切り離した形で信託財産の管理や承継ができるのです。これは、ある意味生前に遺産分割を終えた状態と言えるでしょう。
遺言による信託について
信託には先に述べた契約による信託のほか「遺言による信託(信託法3条2項)」「自己信託(信託法3条3項)があります。
遺言による信託とは
信託は遺言によっても行うことができます。現在銀行で「遺言信託」というサービスを行っているところがありますが、それとは別のものになります。遺言による信託は契約による信託と次のような違いがあります。
・遺言者の死亡により効力が発生する(信託法4条2項)
・認知症対策機能を果たさない(遺言者の死亡により効力が発生するため)
・受託者が効力発生時に信託を引き受けるか不確定である(催告したうえで確答がない場合は裁判所による受託者の選任が行われる・信託法5条・6条)
どんな場合に遺言による信託を使うのか
遺言による信託をお勧めするのは次のような場合です。
・今の段階で財産を渡したくないが将来は財産を信託の仕組みを使い管理してもらいたい ・生前は自分で管理したいが配偶者の判断能力が既にない。
※この場合は
本人 委託者
配偶者 受益者
子 受託者
として遺言信託をするケースが多いです。
遺言信託(金融機関のサービス名称)と遺言代用信託
上記「2.」を遺言信託という場合もありますが、金融機関のサービスで「遺言信託」というものがあります。
金融機関のサービス名称としての遺言信託
これは、遺言書の作成、保管、執行を金融機関が一貫して行うものです。信託銀行だけでなく、地方の金融機関も代理店または業務提携店になれるので、取り扱いを行っています。 資産構成が何行もの金融機関に渡る場合は、家族信託ではなく、金融機関のサービス名称としての遺言信託を利用したほうが、(金融機関のほうは)金融実務に長けているために良いケースが多いようです。また、認知症対策が必要ない場合もこちらのほうがいい場合があります。
遺言代用信託
この言葉は、信託法に明記されているわけではありませんが、説明しておきます。これは、遺言の代わりを果たす機能を持った信託のことです。
本人 委託者・受益者
子 受託者
と契約し、本人が死亡した場合に、子を受益者になるように定める仕組みです(信託法90条)。 商事信託の1つとしても活用され、本人が生存中は、自分のために金融機関に管理・運用してもらい、本人が死亡した後は配偶者や子どもに引き継がせるようにします。場合によっては、信託銀行や家族が受託者になることもあります。これによって、遺産分割協議をすることなく、自分の資産を渡すことができるので、近年注目されています。
商事信託
最後に商事信託についてお話しておきます。商事信託は信託銀行等が業として信託の受託者になる仕組みです。家族信託において、受託者となる可能性のある家族がいないケースでは、商事信託を活用する場合があります。商事信託のメリットは
・受託者が信託銀行等であるために、受託者が死亡するリスクや判断能力を喪失するリスクが少ない
・信託銀行はノウハウを周知しており、実績があるため、利用者の信頼を得ている
ことです。 商事信託の中には、「特定贈与信託」というものがあります。これは、家族の中に障がいを持った人がいる場合、その人の生活を支援するために活用ができる信託の仕組みのことです。通常ですと、本人以外が受益者になると贈与税の問題が発生しますが、特定贈与信託を使うと、障がいの程度に応じで3,000万または6,000万円を非課税で贈与することができます。 「親なき後問題」のような、障がい者の子どもが若く、親が年取っている場合で何十年先の子どもの将来が心配な時などに活用できます。
まとめ
遺言と家族信託を含む信託について、大まかにお分かりいただけたでしょうか。これらの特徴を把握したうえで、自分に合った仕組みを利用すべきです。かなり専門的なので、一度家族信託コーディネータをはじめとする専門家に相談してみてはいかがでしょうか。s
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